全ての顧客は等しく重要なのか?「顧客生涯価値」をベースにしたマーケティングとは

全ての顧客は等しく重要なのか?「顧客生涯価値」をベースにしたマーケティングとは

「マーケティングのヒント」は、さまざまな専門家や記者のみなさまの見解をご紹介するコラムです。

一部の傾向が全体の結果に大きく影響することを示した「80:20の法則」というものがありますが、これは一部の顧客と企業利益にもおなじことが言えます。一部の顧客が企業利益の大半を支えているという事実です。

この傾向をマーケティングに活かすための指標が「CLTV(Customer Long- Term Value)=顧客生涯価値」です。
CLTVに着目すると、「全ての顧客に平等に接する」ことが正解とは限らないことがわかります。

概念と事例を紹介していきます。

目次[非表示]

  1. 1.マーケティングの基本「パレートの法則」
  2. 2.既存顧客を重視するもうひとつの理由とDM戦略の手法
  3. 3.「マイナスのCLTV」を抱える企業も?
  4. 4.顧客へのアプローチにあたっての注意点
  5. 5.CCCマーケティングからのお知らせ

マーケティングの基本「パレートの法則」

「パレートの法則」は、19世紀にイタリアの経済学者であるビルフレッド・パレート氏が見いだしたもので、少数(20%)の原因が結果の大部分(80%)に影響するという理論です。

企業活動で言えば、20%のリソースが80%の利益を生んでいる、あるいは20%の顧客が80%の 売上に貢献している、ということになります。
なお、「80」「20」という数字に厳密な意味はなく、あくまでもものごとの傾向を示したものです。

例えば、カゴメが自社売上の購入傾向を調べたところ、「上位2.5%の顧客が売り上げの30~40%を占めている状態」であることがわかったといいます。

また、ノースウェスタン大学のマーク・ジェフリー教授の調査によると、ある携帯電話会社でも、18%の顧客によって55%の価値がもたらされていることが分かりました。

いずれも厳密に「80」「20」というわけではありませんが、似た現象が起きています。

よって、一定の顧客や商品に注力したマーケティング展開をすべきというのが「CLTV=顧客生涯価値」です。

CLTVは「Customer Long- Term Value」の略です。
直訳すると、顧客から長期的に得られる価値、ということになります。

既存顧客を重視するもうひとつの理由とDM戦略の手法

また、「1:5の法則」と「5:25の法則」というものがあります。

1:5の法則とは、新規顧客を獲得するコストは既存顧客の維持するコストに比べて5倍かかるというものです。
5:25の法則とは、顧客離れを5%改善すれば利益が25%以上改善するというものです。

いずれにせよ、既存顧客、特に多くの売上をもたらす顧客に力点を置き離脱を防ぐことで、新規顧客の獲得にかかるコストを抑えることができ、同時に利益率の改善を狙えるということになります。

なお、ジェフリー教授は、ダイレクトメール・マーケティングについて以下のような例を示しています(図1)。
顧客を「CLTVの高さ」と「反応が期待できる割合」の2軸で分類し、別々のアプローチをするという場合、以下のようなDM(ダイレクトメール/メッセージ)送付の方法が考えられるというものです。

CLTVとDM戦略の関係

ここで注目したいのは、「最も付加価値の高いDM」を送付する対象です。
CLTVが高い顧客をさらに上客へと引き上げることが重要なのです。

このように整理することで、DMマーケティングにかかる費用は半減されることになります。

「マイナスのCLTV」を抱える企業も?

こう見ればCLTVは非常にシンプルな考え方といえますが、「マイナスのCLTV」も実は存在します。

世界最大の家電販売店である米ベストバイ社ではこのようなことが起きていたといいます。

ベストバイ社は、自社の顧客行動を分析した結果、一部の顧客がセールで商品を購入した上、返品で通常価格での返金を受けることを繰り返している事実を発見した。さらに、この顧客層はしばらくすると店を訪れ、「開封済み」として20%割引で売られている、自分が返品した商品を再購入していた。
引用)マーク・ジェフリー「データ・ドリブン・マーケティング」p187

店舗との付き合いは長くなるかもしれませんが、これはマイナスのCLTVでしかありません。
そこでベストバイ社は、これまで返品に関して100%返金保証を掲げていましたが、このプロセスを改善し、手数料の設定などを実施しました。

またジェフリー教授は、別の例としてカスタマーサポートを挙げています。
IT大手のイントゥイットでは、1社のユーザーが年間に800回もカスタマーセンターへ問い合わせをしていたことを発見したともいいます。

問い合わせに対応するにはコールセンターの経費や人件費、通信料がかかります。この状態が長く続けば、結果としてCLTVはマイナスになってしまうのです。

よって、CLTVの高い顧客が優先的に使えるようなコールセンターを設置するなどの手法を考える必要があります。
もちろん上記は極端な例ではありますが、小さなマイナスも積み上がれば大きな損失になります。

顧客へのアプローチにあたっての注意点

「CLTVの高い顧客」といってもその理由はさまざまです。
商品や企業ブランドの「ファン」である場合や、一方で「特に問題がないからそのサービスを使い続けている」というだけの場合です。

後者の場合は注意も必要です。

例えば上述の携帯電話会社の場合、CLTVの高い顧客に対してブロードバンドやケーブルテレビなどの複数のサービスを提案・提供することにより、その顧客は他社への切り替えが面倒になるため、自社のサービスを利用し続けてくれる可能性が高まります。

しかし、質や対応が悪ければ、全てのサービスをセットで乗り換えられてしまう危険性もあるのです。

特に日本では今後、超少子高齢化社会に突入し、市場は縮小していきます。この傾向は長く続く想定です。

新規顧客の獲得は確かに重要なことです。しかし小さな市場で新規顧客の奪い合いを強いられるなかでは、既存顧客を育成していく必要性に注目しなければなりません。

清水 沙矢香さん

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中 。

CCCマーケティングからのお知らせ

本コラムから、「CLTV」を指標とし、一定の顧客や商品に注力したマーケティング展開をすることで、効率よく企業利益の向上を狙えることが分かりました。
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