「売り切り」から「伴走」へ 「サブスクサービス」のビジネスメリットとは一体なに?
「マーケティングのヒント」は、さまざまな専門家や記者のみなさまの見解をご紹介するコラムです。
DVDを購入するのではなく、映画やドラマなどをネット配信で視聴する。
服やバッグなどのアパレルを、所有するのではなく定期レンタルで利用する。
そのような「サブスクリプション」サービスが幅広い業界に浸透しはじめています。
販売する側としては契約段階での利益は薄くなりますが、一方で大きなメリットもあります。
今回はこのような幅広いサブスクリプションビジネスと、企業にもたらすメリットについて見ていきましょう。
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「幻のマスク」は定期便に変化
新型コロナウイルス感染症が国内でも流行の兆しを見せ、マスクが品薄になった際、マスク製造に乗り出して注目を集めた企業のひとつにシャープがあります。
国産マスクということに価値を感じた購入希望者が殺到し、一時は「幻のマスク」とまで呼ばれたシャープ製マスクの販売は、いまや「定期購入」という形に姿を変えています。
毎月決まった枚数の不織布マスクを、利用者の自宅の郵便ポストに届けるというものです。
今となっては多くの種類のマスクが店頭に並んでいますが、シャープはマスク製造を一時のブームで終わらせるのではなく、一定の需要を維持したまま続けているのです。
こうしたサービスを「サブスクリプションサービス」と言います。
雑誌などの「定期購買」に由来する言葉ですが、従来の「定期購買」とは異なる意味合いを持ち始めています。
サブスクリプションサービスが使われる理由
近年のサブスクリプションサービスの典型とも言えるのが、Netflixをはじめとした月額動画配信サービスでしょう。
また、その他のサブスクリプションサービスとしては、毎月届くコーヒーの感想を入力していくことで、より好みに合ったコーヒーが送られてくるというUCC上島珈琲の「MY COFFE お届け便」があります。
また、アパレル業界では月額制で洋服を借り放題できる「メチャカリ」というサービスも展開されています。
その他に、毎週違う生花が届くというサービスで、コンパクトにまとめられた花がポストに届いている様子を筆者はよく目にします。
特にコロナ禍で在宅時間が長くなった人が多い中、こうしたサービスは評判を上げることでしょう。
サブスクリプションサービスはなぜ使われるのか
こうしたサブスクリプションサービスが使われる理由は、下記のようになっています(図1)。
図1 サブスクリプションサービスの利用理由
(出所「サブスクリプション・サービスの利用状況に関するアンケート結果」消費者庁資料p8)
「多くの商品・サービスを」「安価に」「使いたいときにだけ」利用できることを魅力に感じている人が多くいることがわかります。
また、「定額の支払いであり払いすぎの心配がない」というのも大きな特徴です。
特に大きな買い物になると、商品に本当に見合っている価格なのか?という疑念から、多くの人が購入の即断をためらう傾向があります。
場合によっては、例えばクルマの場合、どのクルマか迷うだけでなくクルマの購入そのものを考え直す人も出てきてしまいます。
しかし、その壁を乗り越えるのがサブスクリプションサービスなのです。
「所有」と「共有」の間で
自動車業界でもサブスクリプションサービスが展開されています。
3年間定額でクルマを利用できるトヨタの「KINTO ONE」は月額3万2780円から、ホンダは1か月単位のクルマ利用で、契約の自動延長が可能な「Honda Monthly Owner」というサービスを月額2万9800円から、という価格設定で提供しています。
レンタカーやカーシェアリングでは割高になってしまう、しかし購入するにはハードルが高い、そのような層をターゲットにしています。
レンタカーやカーシェアリングがクルマを「共有」する仕組みであるのに対し、クルマのサブスクリプションサービスは、契約期間中は一時的にクルマを「所有」することになります。都度手続きをしなくてもすぐにクルマに乗れるというメリットを持っています。
特に月単位での契約を設定しているホンダのサービスは、この「共有と所有の間」にあいた穴を埋める存在と言えるでしょう。
単身赴任中だけ、通院の送り迎えが必要な間だけなど、さまざまな用途が浮かびます。
サブスクリプションサービスが企業にもたらすメリット
また、企業にもメリットのある商取引形態と言えます。
というのは、従来の「売り切り」の形態の場合、次にも自社の商品を買ってくれる保証はない上、利益は一時的なものでしかありません。
一方でサブスクリプションサービスの場合、契約が持続する限りは企業にとって「固定収入」が継続するということになります。収益構造を変化させることができるのです。
「モノの所有にこだわらない」ミレニアルやZ世代が台頭する時代では、上記で紹介したアンケートの通り「色々なものを大きな初期費用なしに手軽に試せる」サービスはさらに注目されていくという流れも意識したいところです。
企業と顧客の関係は「売り切り」から「伴走」へ
サブスクリプションサービスの展開は、少子高齢化による国内市場縮小への対応も兼ねています。
また、これまでの「売り切り」型のビジネスでは、顧客との関係は一時的なもの、あるいは問い合わせへの対応にとどまっていました。
しかし、サブスクリプションサービスでは、顧客との関係は継続的なものとなります。企業が「生活の伴走者」の役割を果たすことで、顧客とのより深い繋がりを持つことも可能になります。
ここでひとつ意識しておきたいことがあります。「5:25の法則」です。
「顧客離れを5%改善すれば、利益率は25%改善する」というものです。
そのためにも必要なのが「カスタマーサクセス」の提供です。
サブスクリプションサービスの展開にあたっては、顧客離れの防止がより重要になっていきます。
ただ、顧客との継続的な関係は、最新のニーズやトレンドの変化を感じることができる場所にもなります。
単なる「問い合わせ先」から生活の「伴走者」へ。
縮小していく市場では、必要な考え方と言えます。
清水 沙矢香
福岡県出身。2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や統計分析を元に多数メディアに寄稿。
CCCマーケティングからのお知らせ
顧客離れを防ぎ、カスタマーサクセスを提供することはサブスクリプション型も含め、すべてのサービスにおいて重要です。そのためには、顧客にファンになってもらい、継続的にサービスを利用いただくことが一つのポイントとなります。
では今、生活者が商品やサービスに求めるコミュニケーションとはどのようなものなのでしょうか?実際の声から読み解いた結果を、無料でダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください。
※CCCマーケティングでは、セキュリティ上厳重に管理された環境のもと、個人を特定できない状態でマーケティング分析を行っております。
※本コラムに記載された商品・サービス名は各社の商標または登録商標です。
参考)「最新 マーケティングの教科書2021」日経BP p36
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