【対談連載】「横山隆治の“宣伝部長”をDX」 第二弾は青山商事 リブランディング推進室 副室長 平松葉月氏

【対談連載】「横山隆治の“宣伝部長”をDX」 第二弾は青山商事 リブランディング推進室 副室長 平松葉月氏

CCCマーケティングは、「ユニークデータを解決力に。※1」をキーメッセージに掲げ、年間トランザクション50億件超におよぶ購買データや約7,000万人の生活者の多種多様なライフスタイルデータをもとに、さまざまな企業の課題解決に取り組んでいます。

「エグゼクティブ・アドバイザー」の横山隆治氏と、企業のみなさまのDX(デジタル・トランスフォーメーション)に寄与し、マーケティング課題解決から経営戦略の策定までご支援するべく連載を開始した「横山隆治の“宣伝部長”をDX」。

第二弾は、青山商事株式会社 リブランディング推進室 副室長の平松葉月氏をお迎えした対談をお届けします。

目次[非表示]

  1. 1.マスでもデジタルでも受け手は1人。マスとデジタルの役割を分けたコミュニケーションを。
  2. 2.ビロウ・ザ・ラインからスルー・ザ・ラインでマーケティングを一気通貫させる!
  3. 3.ブランド規定が送り手から受け手へとパラダイムシフト。
  4. 4.コミュニケーション設計に「自分ごと化」「仲間ごと化」「社会ごと化」を織り交ぜていくことの重要性。

マスでもデジタルでも受け手は1人。マスとデジタルの役割を分けたコミュニケーションを。

横山 ここ最近、経営層からマーケティングや広告の責任者に対して、「デジタル化を進めろ」という話が頻度高くおりてきているということをよく聞きます。ただ日々いろんなことに追われている現場では、デジタル化を具体的にどうやって進めていいのかが分からなかったり、そんなに簡単に今までのやり方を変えることができなかったりしますよね。今までアナログとデジタルでは部署やアウトソース先も異なるので、文化が違ったり、「融合」と言われてもなかなか進まず、すごく苦しい思いをしている責任者の方が多いんじゃないかと思っています。平松さんは実際にデジタル化に向けて動かれていらっしゃいますが、何かアドバイスはありますか。

平松 マスメディア(以下「マス」)がメインだった時代からある宣伝部や販促部で、新聞、テレビ、雑誌、ラジオをメインに扱って回していた方が今、宣伝部長になっていますよね。中には今でもマスを柱にして、デジタルとマスは違うという思い込みから、「俺は、デジタルが分からない。私は、デジタルは関係ない。」といった考えを持っている方もいて、これがデジタルとの分断を生んでいると思っています。

お客さんとのコミュニケーションを考える時に、マスであってもデジタルであっても、受け手側は1人じゃないですか。誰といつ、どのようにコミュニケーションをとるのか、マスはこの役割、デジタルはこの役割、と全体的に役割を分けてマスとデジタルを考えると、自ずと何をすべきかが理解できてくると思っています。ただ実際は、部署が分かれていたり、予算が分かれている会社も多く、付き合い先も違うとなると、そこで対立が生まれる構造になってしまっています。皆さん、デジタルを全部ひとまとめに仰いますが、よく話されているデジタルとは、結論、ツールや手段だけのことが多いです。一方で、デジタルにはもっといろんなことがあって、例えば、データをどういうふうに扱うかとか、何のデータをとって何に活かすのかも含めてデジタルだと思っています。

マスでもデジタルでも受け手は1人。マスとデジタルの役割を分けたコミュニケーションを。

ビロウ・ザ・ラインからスルー・ザ・ラインでマーケティングを一気通貫させる!

横山 数年前に『マーケティングのデジタル化5つの本質』という本を出版しました。その中で、マーケティングに一番インパクトを与えるのは、実際はアナログ施策のほうが多く、アナログ施策のプロセスをデジタル化することを考えることが重要。アウトプットのデジタル化ばかりを考えてもあまり意味がない、ということを書きました。
昔は「ビロウ・ザ・ラインはしない」ということで、ブランディングやクリエイティブを作る部署が販促と切り分けられていていましたが、今はデジタルのおかげで逆にスルー・ザ・ラインで一気通貫できるようになっています。誰かがマーケティング領域を一貫して見ることによって、部分最適から全体最適への流れができると思います。ただ、皆さん頭では考えてると思うんですけど、実際にそういう動きができる会社と、できない会社が出てきていますよね。昔は、宣伝広告費が、A社も、B社も、C社も、100億円あれば同じくらいの広告マーケティング活動ができたと思いますが、今の時代は同じ予算を持っていても、その成果やパフォーマンスが大きく変わってしまう。ある意味、怖い時代になったなと思います。

平松 今までポンっと使ってた予算を、これからは、どこに何を使って誰に何を届けるかをきちんと考えて使わないと、ほぼ無駄になってしまうことがあります。会社やブランドをPRする時に、お客さんに「どのように見られたいか」がまずあり、そこからの落とし込みでお客さんに何を伝えるか、どうやって伝えるかがありますよね。昔はブランディングと販促を分断して考えていたと思いますが、そこが分断してしまうとお互いにやっていることやお客さんに対するコミュニケーションが全然異なってしまい、最終的に全く効果を出さないものになってしまいます。

ブランド規定が送り手から受け手へとパラダイムシフト。

横山 今はブランドを規定するのが、送り手から受け手に主導権が移っています。ブランド側が自分の意思を押し付けようとすること自体、かなり機能しなくなっています。青山商事さんのように、リアル店舗をお持ちであれば、そこは売場ではなくて買場、という発想をしないといけないのは当然だと思います。生活者のほうがデジタル化が進んでしまい、お客さんとインターフェースしているところのデジタル化が遅れてしまっているのが、最大の問題点ですよね。

平松 今までは、何を売りたいかを視点に広告活動をしていたと思いますが、今は、お客さんにとって何がいいのか、何の課題を解決するのかを伝えないと、物が売れないし、受け入れてもらえない、選んでもらえない時代になってきています。今までの、みんながこれを持ってる、誰かがこれが良いって言ってる、という物を買っていれば間違いない、という生活者の思考から、私はこういう生き方をするからこういう物を選びます、という意思表示を個々ができる時代になってきていて、そこが送り手から受け手へパラダイムシフトした根本にあるんじゃないかと思っています。そして、そここそデジタルツールが絡んでくる部分ですよね。

横山 テレビは蓄積効果はあるけど、デジタルは即効性。このタイムラグの違いを上手に相乗効果として作っていくことは意外と難しいです。デジタルでは、マスが持つ勝ちパターンのような一辺倒な単純なものはなく、どの会社も絶対に成功するパターンはないんですよね。そこがデジタルの難しさではありますが、成功事例を作っていかなきゃいけない時代です。

平松 どうやってお客さんに伝えていくかの手段を、どのように決めていくのかは、永遠の課題です。デジタルからリアルにお客さんを動かすことが、リアル店舗を持っている会社には付きまとう課題です。マスとデジタルを切り分けて考えることは不可能に近く、リアル店舗に送客したり物を買ってもらうために、デジタルで何を展開するのか、マスと連動した全体コミュニケーションを設計しないと、人がアクションを起こすことまで到達できません。その配分が今後すごく課題になってくると思いますし、そこをデータ化していきたいです。

横山 デジタルとマスを含めて指標の共通化や共通言語化は、何らかの形でトライしていくことは重要ですよね。そうしないと、どこまでいっても水と油になってしまいます。テレビは昔から売り手市場だったので、売り手の指標としての視聴率もテレビを100%見ていることが母数で計算されていて、人口が減ったり、テレビを見ない人も出ている今の時代では、正しい数値を測れていないですよね。
一方で、テレビもまだまだ絶大な効果がありますが、世の中的には、テレビを見る人が減っているからテレビは効果が無くなっている、だからデジタルシフトだっていう安直な考え方が増えています。テレビだけでは難しくなっているのは事実なので、それを上手にデジタルや他のメディアと組み合わせていくことこそが重要です。新しいことを認知させたり、理解させたり、好感度を保つためには、一つのメディアだけの接触ではなかなか難しい。その時に、デジタルではどんなメッセージ、テレビではどんなメッセージにするのか。同じでいいのか、ターゲットやセグメントによって変えるのか、変えないのか。複数のメディアでより生活者のインサイトに合わせた文脈で設計し、メッセージを最適化した上で相乗効果を出せる事例をつくりたいと思います。

コミュニケーション設計に「自分ごと化」「仲間ごと化」「社会ごと化」を織り交ぜていくことの重要性。

平松 私が今までやってきた経験上の話ですが、人は三つぐらいのソースから情報を得ると、それを信用したり、良いと思ったりする傾向にあります。最初はプレスリリースをもとにメディアに記事として発信してもらい、その情報を日常生活の中でスマホで見て、「こんなのがあるんだ」っていうことをまずインプットします。その後、SNSなどで友達がシェアしたのを見て、「これってこの間の記事のやつだったな」と2回目のインプットをします。そのタイミングでCMを見ると、「あのとき見たあれだ。あの子が言ってたあれだ」とちゃんとCMが入ってくる、そういう三段構えのようなものをいつも意識してやっています。違う話者からの情報をいかにうまく伝えられるかが、横山さんのおっしゃった事例として実現できるのかなと思います。

横山 まさにその三つを、“自分ごと化”と“仲間ごと化”と“社会ごと化”と言っています。“自分ごと化”はテレビだけではなかなかできませんが、SNSを通じて自分が信頼している人からの情報だと全く違う伝わり方をします。その三つをどういうふうに織り交ぜていくかが今後のコミュニケーション設計のポイントでしょうね。ひたすら、デジタルを使えばいいってわけではなくて、その中身をどうやって最適化するか、ですよね。
先ほどもお話しましたが、青山商事さんのように自社の店舗網があり、現場でお客さんと接してる人がたくさんいることが大きな資産だと思います。店舗も含めた新しいオウンドメディアの形をつくっていくチャンスがあるような気がしてまして、そこはすごく期待をしています。

コミュニケーション設計に「自分ごと化」「仲間ごと化」「社会ごと化」を織り交ぜていくことの重要性。

■横山隆治氏 プロフィール
横山隆治事務所代表取締役
CCCマーケティング株式会社 エグゼクティブ・アドバイザー
1982年、青山学院大学文学部英文学科卒。同年、旭通信社入社。1996年、インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムを起案設立。同社代表取締役社長に就任。2001年、同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論家、体系化に取り組む。2008年、ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月、デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。企業のマーケティングメディアをPOEに再整理するトリプルメディアの考え方を日本に紹介。主な著書に『CMを科学する』(宣伝会議、2016年)、『新世代デジタルマーケティング』(インプレス、2015年)など

■平松葉月氏 プロフィール
青山商事株式会社 リブランディング推進室副室長
1996年甲南大学文学部卒 2002年創造社デザイン専門学校視覚デザイン科卒
グラフィックデザイナーとしてキャリアスタートし、クリエイティブ兼マーケターに転身。2002年~2005年シーズ広告制作会社にてグラフィックデザイナー、2005年~2015年株式会社ラウンドワン、2015年~2017年アクア株式会社で主に広告宣伝、販促、クリエイティブ、広報などワンストップでのマーケティング組織構築を実現し、2017年~2019年在籍の外食らーめんチェーン幸楽苑ホールディングスにて経営とマーケティングの統合により業績を回復。2019年10月よりマーケティングによる経営課題の解決および紳士服業界の改革・復活を目的として青山商事株式会社にリブランディング推進室 副室長として入社。
モットー:「楽しく生きる」

※1 ユニークデータとは、約7,000万のシングルID、年間50億件以上の購買トランザクション、20万店舗のネットワークで扱われる60億種類の商品データ、数千項目からなる顧客DNAのペルソナデータ、オフライン・オンライン上の移動・行動データやメディア接触データ、またCCCMKグループオリジナルのエンハンスデータなどを指します。
※2 エグゼクティブ・アドバイザーとは、さまざまな企業のみなさまのDX(デジタル・トランスフォーメーション)に寄与し、マーケティング課題解決から経営戦略の策定までご支援する役割の総称です。

※本コラムに記載している会社名および商品・サービス名は各社の商標または登録商標です。

本記事を引用・転載をご希望の方は、事前にお問い合わせよりご連絡ください。

その他のコラム

人気記事ランキング

カテゴリー

ページトップへ戻る