消費者採用プロセスを知り、販売不振をヒットにつなげる
「マーケティングのヒント」は、さまざまな専門家や記者のみなさまの見解をご紹介するコラムです。
今までにない新しい商品やサービスを世に送り出すというのは、空振りに終わってしまうリスクが高いものです。
せっかく商品やサービスが認知され、興味を持ってもらったとしても、いざ買おうとなった段階でブレーキがかかってしまうという人も多くいます。
消費者が購入を決める際には、無意識下でさまざまな思考が行われています。
そういった思考を理解していないと、「良いものなのに、なぜか売れない」ということになりかねません。
消費者に受け入れられるようにするためには、どういった点に注意する必要があるのでしょうか。
消費者が購入を考えている時に無意識的にやっていること
新しい商品やサービスをリリースするとなると、消費者の反応は気になるものです。
うまくヒットにつながってくれればいいものの、なんとなく敬遠されてしまうという反応に担当者として頭を抱えてしまうこともあるでしょう。
最近の研究では、人が意思決定をする際には、無意識の影響を大きく受けることがわかっています。
ここでは、事前に与えられた刺激の影響や、その刺激の受け止められ方について解説していきます。
先行刺激について
まずは、先行刺激による影響からです。
人は直前に見聞きした情報の影響を受けやすいとされており、「係留性ヒューリスティック」と呼ばれています。
わかりやすい事例が、テレフォンショッピングです。
先に通常価格を見せることでお得感が強調され、消費者の買い物意欲が刺激されます。
口コミも、先行刺激として重要です。
口コミで良い評価が多かったのか、悪い評価が多かったのかも、購入を決める大きな要素です。
認知容易性について
次に、消費者が刺激を受け止める際に、認知容易性(わかりやすさや親しみやすさ)が重要になってきます。
簡単に理解できないものや、慣れ親しんだものでないものは、脳での情報処理の負荷が大きいため、敬遠されがちになります。
一方、何度も繰り返し見聞きしたものや、見やすい表示、先行刺激のあったものや機嫌がいい時などは、認知するのが容易になります。
そうなってくると、親しみを感じる、信頼できる、快く感じる、楽だと感じる、といったようにポジティブな反応が生まれるようになります。
このポジティブな反応が生まれることで、商品やサービスの購入に結びつきやすくなります。
ニーズはあるはずなのに、「なんだかよくわからなかった」「親しみが持てなかった」というのが原因で売れなかったというケースは、数多くあります。
このことに関しては、本記事の「ユーザーフレンドリーであることの必要性」のところで事例を交えながら詳しく解説していきます。
「お試し」が重要なのはなぜなのか
それではまずは先行刺激について、もう少し掘り下げていきます。
良い口コミは、消費者の背中を押す上で非常に有効です。
多くの人はリスクのある行動を取りたがらず、買って損はしたくないという「損失回避の心理」が働きます。
そのため、購入前にまずは口コミをチェックするという人が多いものです。
YouTubeで商品の細かい使い方をチェックするという人もいます。
ただ、百聞は一見に如かずという言葉もあるように、口コミを耳にするよりも、実物を見たほうが、得られる情報量は多くなります。
そして、目で見るよりも多くの情報が得られるのが、実際に体験してみるということです。
食料品や飲料品であれば、試食会や試飲会といったプロモーションも行われ、商品を気に入ってもらえれば購入につながります。
また、ソフトウェアや高額なサービスといったものは、自分にとってどれくらい役立ちそうなのかは、ある程度体験してみないと判断が難しいものです。
視覚や聴覚は、目を閉じたり、耳を塞いだりすれば遮断されます。
触覚が五感の他の感覚ともっとも違う点に「ブロックできない」ということがあり、触覚で感じたことは、ほぼ無条件に信じてしまうとされています。
それを考えると、実際に体験してもらうということには、大きな説得力があると言えます。
見たり聞いたりといった情報では限りがあり、そのため脳は実際に使ってみたらどうなるのかをうまく予測できません。
脳はそのことをストレスに感じてしまい、結局「やらない」という選択が起こりやすくなるとされています。
これに対して、商品やサービスを試用してみることで脳に多くの情報がもたらされると、使ったらどうなるのかという予測が容易になります。
購入を前に「買って損をしないだろうか?」という不安は薄まり、買うという決断がやりやすくなります。
行動の結果を予測できるようになると、人は行動に移りやすくなります。
消費者の購入を後押しする上で、試用の果たす役割は大きいと言えるでしょう。
ユーザーフレンドリーであることの必要性
せっかく商品やサービスを使ってもらっても、「わかりづらい」や「使いづらい」といった理由で敬遠されてしまうこともあります。
商品やサービスが広く浸透し、リピートしてもらえるようになるためには消費者にとってわかりやすく使いやすいものであること、つまりユーザーフレンドリーであることが重要です。
ここでは、広く認知してもらい、親しみやすくするためのネーミングやデザインについて二つ事例をご紹介します。
事例:お~いお茶
一つ目の事例が、伊藤園の「お~いお茶」です。
発売当初は「缶入り煎茶」という名称でしたが、取扱店が増えるにつれ「読み方が分からない」「まえ茶?」「ぜん茶?」という問い合わせが相次ぐようになりました。
学生を対象とした意識調査の結果、煎茶の呼び方は浸透しておらず、日本茶に対する認識の違いが浮き彫りとなりました。調査結果で唯一耳慣れた言葉とされていた緑茶も、「緑茶はタダで飲めるもの」という抵抗感があったため、わかりやすく親しみやすいネーミングが必要だったのです。
「お~いお茶」という名称は、もともとテレビCMで使われていたフレーズをそのまま商品名にしたものです。俳優の島田正吾さんがおっとりした口調で呼びかけるCMの認知度の高さもあり、広く受け入れられることとなりました。
事例:鼻セレブ
二つ目の事例が、高級ティッシュの「鼻セレブ」です。
もともとは「モイスチャーティッシュ」というネーミングで、ティファニーを思わせる青色のパッケージでした。高級感はあったものの売上は伸び悩み、後から同様の商品を出してきた他者にシェアを奪われるという結果になってしまいました。
一見すると何ら問題のないネーミングやパッケージデザインのように思えますが、親しみやすさという点では、少し問題があります。高級感があることで、周囲の人と気軽にシェアすることに抵抗感が出てきてしまいます。
そこで、ネーミングを「鼻セレブ」とし、パッケージのデザインに動物の赤ちゃんの顔のアップ写真を採用することで、親しみやすさや可愛らしさを出し、これがヒットにつながりました。
当初は、子ヤギがデザインされたパッケージもありました。ただ、子ヤギの視線を怖く感じる人が多いせいか、いつも売れ残ってしまうため白クマに差し替えられ、現在のラインナップとなりました。
消費者に広く受け入れられるようにするためには、わかりやすさや親しみやすさが重要だということが、おわかりいただけるのではないでしょうか。
黒田貴晴
キャリア系マーケター、心理カウンセラー
脳科学や心理学に強いマーケターとして、主にキャリアに関する分野で活動しているほか、心理カウンセラーとしても、コミュニケーションに問題を抱えた方へのサポートも行っています。就職・転職系のメディアやビジネス心理学のメディアでの執筆実績多数。
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